2012/05/28

廣木総領事と慰安婦の碑騒動を報じたニューヨーク・タイムズ



日本の国会議員も巻き込んだアメリカの慰安婦の碑騒動。ニューヨーク・タイムズもこれを報じた。

この記事の冒頭の写真には、「ニュージャジー州パリセイズパークの記念碑は、第2次大戦中日本兵達によって性的に奴隷化された女性たち、多くの朝鮮人達に捧げられている(A memorial in Palisades Park, N.J., is dedicated to women, many Korean, who were sexually enslaved by Japanese soldiers during World War II)」というキャプションがついている。

改めて「慰安婦の強制連行」が世界の常識であり、この騒動を論じるに当たっては、それを前提に考えていかねばならないという事が理解出来ようというもの。

ニューヨークの日本総領事や日本の国会議員が、アメリカの公立図書館に立てられた慰安婦の碑に抗議に行き(火に油を注いだだけで)、成果なく帰って来たことは、韓国のメディアがこぞって取り上げた。日本側が市側を買収しようとしたかのような書きぶりであったが、韓国メディアの報道を鵜呑みにするのは危険としても、NYTの記事なら幾らかは参考になるはずである。この記事の通りであれば、廣木総領事の対応は愚かの一言である。

NYTによれば、廣木総領事は河野談話小泉首相のお詫びの手紙をパリセイズパーク市長の前で読み上げたということである。それで慰安婦の碑の撤去を求める積りだったようだが、もしもこの通りだったとすれば総領事はよほどやる気がなかったのだろう。

日米友好の桜を植える廣木(2012.5)
情報戦は苦手?

例えば米国の大統領が原爆について謝罪したとする。・・・だから、原爆ドームを撤去してくれという話になるだろうか?謝罪の有無と碑(メモリアル)の存在はまったく関係ない。当然、パリセイズパーク市側もそのように感じたろう。そもそも慰安婦の碑には「日本政府は謝罪していない」とは一言も書かれていない。この碑に「日本帝国政府の軍隊により拉致された20万人以上の女性と少女たちを偲ぶ」と書かれているのが問題であって、これは運動家らが国際的に撒き散らしている対日プロパガンダであり、つまり、この碑は日本に対する悪意に基づいて建てられた物なのである。総領事は突っ込むポイントを間違えている。

反省しています。謝罪もしました。だからもう勘弁して下さい。・・・これが自民党時代から変わらない日本政府の基本姿勢。これは、「軍隊の買春」に厳しい現在の国際常識の元では、政府の態度としては仕方のない部分もあろう。「お宅の国も目クソ鼻クソ」とは言えないのが成熟した国家の辛い所である。日本領事館の岩井氏の慎重な物言いがそれを象徴している。しかし、それにしても、碑文の内容と無関係に日本政府のこれまでの公式見解を繰り返しただけの廣木総領事のやり方はお粗末すぎる。

というのが、KAVCの理事の本音なのだが・・・

この記事からはもう一つ、日本側が反発すればするほど反日グループを喜ばせるという構図が明らかになっている。かつて、2007年の米下院の慰安婦決議採択運動を主導したアナベル・パクは、当初アメリカの議員たちは慰安婦問題について興味を示さなかった、その流れを変えたのは安部首相の失言(日米のマスコミのミスリードというのが実態)であると述べた。日本にちょっかいを出し、一部の日本人がそれに反発すると、それを栄養にしてさらに日本叩きキャンペーンを加速させる。彼らは憎しみを餌として成長し続けているのである。これだけのネガティブ・キャンペーンをやられて反発するなというのも無理な話だろうが、反撃するなら上手にやらねばならない。

空気が読めない日本側に比べ、反日グループは戦略的である。「我々韓国系アメリカ人は、この問題を世界的な人権侵害というレベルで見ている」。そう。これは決して反日でもないし、日本人に対するヘイトでもない、と彼らは取り繕っているのである。・・・その実、韓国のメディアには結構本音を喋っていたりするのだが・・・。

NYTは一応両者に取材している。記事が一方的になっているとすれば、それは日本側にも問題があるということだろう。嘘がつけない(日本)政府と何でもありの市民団体の戦いがハンデ戦であることは確かだが、もう少しやり様があるはずである。

追記(2012.6.21): 自民党の新藤義孝が公開しているビデオには、外務省の役人が保守派の代議士に尻を叩かれている様子が映っている。廣木総領事はこうした圧力を受けてこのような行動を取ったものと思われる。また、ビデオを見ると、外務省の役人たちが河野談話によって手足が縛られている様子が分かる。彼らを非難するのは筋違いかもしれない。

ニュージャージー州で、慰安婦記念碑が古い恨みを深化させる

KIRK SEMPLE

日本の公人の二つの代表団が今月、ある要請を携えニュージャージー州パリセイズパーク市を訪れ現地の行政関係者を驚かせた--来訪した日本人らは公立公園にある小さなモニュメントの撤去を求めたのだ。

真鍮の銘板つきの石のモニュメントは、2010年にいわゆる慰安婦、すなわち第二時大戦中に日本兵によって性奴隷制度に強制された多くは朝鮮人からなる数万人の女性や少女たちの思い出に捧げられた物だった。

しかしながら、日本人たちによるモニュメント撤去のロビー活動は反発を招いたようだ。・・・そして慰安婦問題という両国間の積年のトゲを巡る日本と韓国の間の敵意を深化させた。

ハドソン川からマンハッタンに渡る行政区であるパリセイズ・パーク市の当局は要求を拒否し、そして現在、日本人たちの努力は韓国(朝鮮)系のグループをニューヨーク地区や全米に更に多くのモニュメントの建設計画へと駆り立てた

「実際彼らは我々を助けてくれてます」国政調査局によれば人口の過半数である約2万人が韓国(朝鮮)系であるパリセイズ・パーク市の記念碑の為に奔走した市民団体、韓人有権者団体(KAVC)の弁護士Chejin Parkは言う。「この問題に対する(一般人の)意識を高めることが出来ます」

韓国人グループは、中国系移民のニューヨーク市会議員ピーター・クーによるクイーンズ、フラッシングにの通りを慰安婦に敬意を表して改名しようという提案に対する日本での手紙による反対キャンペーンによって更に突き動かされた

パク氏は、先週一週間かそこらで、彼の団体はニュージャージーやテキサスの少なくとも5つの韓国人コミュニティーの世話人たちから、自分たちでも記念碑を建てたいという電話をもらったいう。カリフォルニア州とジョージア州で計画中の最低4つの記念碑に続くものであると氏は付け加えた。

パリセイズパークのモニュメントはアメリカにおける慰安婦に捧げられた唯一の物だと行政府の関係者は言う。

「ニューヨークのフラッシングを手始めに、韓国(朝鮮)系アメリカ人コミュニティの主な地区で建立を続ける」同地区で最古の韓国人コミュニティ組織の一つである大ニューヨーク韓国系アメリカ人協会の理事であるポール・パクは言う。「我々韓国系アメリカ人は、この問題を世界的な人権侵害というレベルで見ているのです」。

慰安婦伝来の日本と韓国との間の緊張は、韓国の首都ソウルの日本大使館前の向いに犠牲者の名誉を称えるブロンズの像が12月に設置された時に再び火がついた。日本政府は韓国の当局に像の撤去を求めたのである。

日本の指導者達は彼らの公式の謝罪、すなわち悔悟の表明と慰安婦に対する扱いに関する責任を認めた事実は十分であったと言ってきた。犠牲者たちの為の10億ドルの基金の提供を含めて。しかし、多くの韓国人はそれらの行動は不十分だと主張する。生存する犠牲者たちは民間基金である事を理由に基金を拒否してきた。犠牲者たちは日本政府からの賠償を求めている。

パリセイズパークのジェームズ・ロタンド市長は、ロビー活動は先月の暮れからそれとなく始まったという。ニューヨークの日本領事館の役人たちが(パリセイズパーク市の)行政府の行政官にEメールで会談を求めてきた。

会見を振り返って市長は言う。「私は秘書(?)を読んで『何事か』と尋ねたんです」「すると彼女は『日米関係に関するものです』と言うから、『ああ、じゃあいいよ』と言ったんです」。

5月1日の最初の会談は十分なごやかに始まった、と彼は言う。代表団は廣木重之が頭を務め、彼はアフガニスタンにおける自分の仕事を含めた自身の経歴について話した。「細かいことですよ」とロタンド氏は言う。

すると話は突然変わったとロタンド氏は言う。総領事は二つの文書を取り出し、声に出して読み上げたのだ。

一つは日本政府が軍当局が慰安婦の強制や苦難に関与したことを認めた1993年の当時内閣官房長官であった河野洋平の談話のコピーで、もう一つは当時首相であった小泉純一郎の慰安婦生存者に彼女たちに対する取り扱いを謝罪した手紙であった。そして、廣木氏は、日本政府が「記念碑の撤去を望んでいる」と告げたとロタンド氏は回想する。

ロタンド氏は、総領事が日本政府が地元に桜の木を植えたり公立の図書館に本を寄贈する考えがあるとも、「その他にも、我々がこの世界で一つであり別個の存在でないことを示す何らかの事をする」と語ったと言う。しかしながら、それには記念碑の撤去が条件だった。「私は自分の耳が信じられませんでした」と会見に同席した韓国系アメリカ人でもあるジェイソン・キム副市長は言った。「血が逆流しました」。パリセイズパークの役人たちは要求を拒絶し、代表団は去った。

第二の代表団は、4人の国会議員に引き連れられ5月6日にやって来た。彼らのアプローチはより非外交的であったとロタンド氏は言う。野党自民党のメンバーであった政治家たちは碑を撤去させようとして、パリセイズパークの関係者に対し慰安婦は決して性奴隷として強制的に徴集だれたものではないと納得させようとした。

「彼らは慰安婦は嘘だと言った。外部の斡旋業者が設置したもので、軍隊の面倒を見る為に報酬を得ていたのだと」と市長は説明する。「私は言いました。『撤去はしません。しかし、遠路はるばるありがとう』と」

ニューヨークの日本領事館はこのロビー活動については口が重い。今週行われたインタビューで岩井文男副領事は、総領事がモニュメントの撤去を要求したかについては答えなかった。ただ、総領事がモニュメントの撤去の見返りに地元支援を提案したという事については否定した。廣木氏は「そのような条件は一切出していません」と彼は言う。

岩井氏は、パリセイズパーク市に特別な事でないにしても、慰安婦問題は韓国政府と日本政府の間のハイレベルで討議が継続している問題だと語った。

「ですから」と彼は言葉を注意深く選ぶかのように間を置き、「問題はかなり複雑なんです」


追記(2013.6.10): この一件は、日本政府にとってもニューヨーク総領事館にとっても薬になったようだ。翌年(2013)フォートリー市でも慰安婦の碑が設置されることになったが、今度は日本政府も慎重。ただし、「適切に対処していく」気があるのかは疑問。


...在NY日本国総領事館は「その動向は承知しており、日本政府としては、慰安婦問題を政治問題、外交問題化させるべきではないと考えており、こうした立場に基づき、米国における慰安婦問題について、適切に対処していく」と述べた。...

※2 JB PRESS 2013.6.10

In New Jersey, Memorial for ‘Comfort Women’ Deepens Old Animosity


Two delegations of Japanese officials visited Palisades Park, N.J., this month with a request that took local administrators by surprise: The Japanese wanted a small monument removed from a public park.


The monument, a brass plaque on a block of stone, was dedicated in 2010 to the memory of so-called comfort women, tens of thousands of women and girls, many Korean, who were forced into sexual slavery by Japanese soldiers during World War II.


But the Japanese lobbying to remove the monument seems to have backfired — and deepened animosity between Japan and South Korea over the issue of comfort women, a longstanding irritant in their relations.


The authorities in Palisades Park, a borough across the Hudson River from Manhattan, rejected the demand, and now the Japanese effort is prompting Korean groups in the New York region and across the country to plan more such monuments.


“They’re helping us, actually,” said Chejin Park, a lawyer at the Korean American Voters’ Council, a civic group that championed the memorial in Palisades Park, where more than half of the population of about 20,000 is of Korean descent, according to the Census Bureau. “We can increase the awareness of this issue.”


Korean groups have been further motivated by a letter-writing campaign in Japan in opposition to a proposal by Peter Koo, a New York councilman and Chinese immigrant, to rename a street in Flushing, Queens, in honor of comfort women.


Mr. Park said that in the past week or so, his organization had received calls from at least five Korean community organizers around the country — in Georgia, Michigan, New Jersey and Texas — expressing interest in building their own memorials. These would be in addition to at least four memorials in the works in California and Georgia, he added.


The monument in Palisades Park is the only one in the United States dedicated to comfort women, borough officials said.


“Starting from Flushing, N.Y., we will continue the construction in the areas of major Korean-American communities,” said Paul Park, executive director of the Korean-American Association of Greater New York, one of the oldest Korean community organizations in the region. “We Korean-Americans observe the issue on the level of a global violation of human rights.”


Tensions between Japan and South Korea over the legacy of comfort women were reignited in December when a bronze statue in honor of victims was installed across the street from the Japanese Embassy in Seoul, the South Korean capital. Japanese officials have asked the Korean authorities to remove that statue.


Japanese leaders have said that their formal apologies, expressions of remorse and admissions of responsibility regarding the treatment of comfort women are sufficient, including an offer to set up a $1 billion fund for victims. But many Koreans contend that those actions are inadequate. Surviving victims have rejected the fund because it would be financed by private money. The victims are seeking government reparations.


Mayor James Rotundo of Palisades Park said the lobbying began obliquely late last month. Officials at the Japanese consulate in New York sent e-mails requesting a meeting with borough administrators.


“I called the secretary and said, ‘What is this about?’ ” the mayor recalled in an interview, “and she said, ‘It’s about Japanese-U.S. relations,’ and I said: ‘Oh. Well, O.K.’ ”


The first meeting, on May 1, began pleasantly enough, he said. The delegation was led by the consul general, Shigeyuki Hiroki, who talked about his career, including his work in Afghanistan — “niceties,” Mr. Rotundo said.


Then the conversation took a sudden turn, Mr. Rotundo said. The consul general pulled out two documents and read them aloud.


One was a copy of a 1993 statement from Yohei Kono, then the chief cabinet secretary, in which the Japanese government acknowledged the involvement of military authorities in the coercion and suffering of comfort women.


The other was a 2001 letter to surviving comfort women from Junichiro Koizumi, then the prime minister, apologizing for their treatment.


Mr. Hiroki then said the Japanese authorities “wanted our memorial removed,” Mr. Rotundo recalled.


The consul general also said the Japanese government was willing to plant cherry trees in the borough, donate books to the public library “and do some things to show that we’re united in this world and not divided,” Mr. Rotundo said. But the offer was contingent on the memorial’s removal. “I couldn’t believe my ears,” said Jason Kim, deputy mayor of Palisades Park and a Korean-American, who was at the meeting. “My blood shot up like crazy.”


Borough officials rejected the request, and the delegation left.


The second delegation arrived on May 6 and was led by four members of the Japanese Parliament. Their approach was less diplomatic, Mr. Rotundo said. The politicians, members of the opposition Liberal Democratic Party, tried, in asking that the monument be removed, to convince the Palisades Park authorities that comfort women had never been forcibly conscripted as sex slaves.


“They said the comfort women were a lie, that they were set up by an outside agency, that they were women who were paid to come and take care of the troops,” the mayor related. “I said, ‘We’re not going to take it down, but thanks for coming.’ ”


The Japanese consulate in New York has been reluctant to discuss its lobbying.


In interviews this week, Fumio Iwai, the deputy consul general, would not say whether the consul general had requested that the monument be removed. But he denied that the consul general had offered to help the borough in return for the monument’s removal. Mr. Hiroki “did not offer any such condition,” he said.


Mr. Iwai said the issue of comfort women, if not Palisades Park specifically, was the subject of continuing discussions “at a very high level” between the governments of South Korea and Japan.


“So,” he said, pausing as if to choose his words carefully, “things are quite complicated.”

※2
ニュージャージー州バーゲン郡フォートリー・メモリアルパークに新たな慰安婦碑を設置する活動を続ける韓国系団体同士が対立していた記念碑のデザインや文字について、表記などの合意に達したと地元ニュースサイト「フォート・リー・パッチ」が報じている。

 4月10日付同サイトは、記念碑設置やデザインを提案した団体「フォート・リー・コリアン・アメリカン・ベトナム・ウォー・ベテラン」に対し、他団体「コリアン・アメリカン・シビック・エンパワーメント(KACE)」が、提案デザインにある旭日旗を取り除くことや文字の表現を変更することなどを求めていた。

 合意に達した内容として、当初の表記「sexual service」(性的サービス)から「sexual slavery」(性的奴隷)に変更されたほか、「Japanese Imperial Army」 (日本帝国軍)を 「Armed Forces of Imperial Japan」(大日本国防軍)に変えることで一致した。

 この動向についてフォート・リー区役所は「慰安婦設置に対する議論は現在も継続されている状態」と話した。

 在NY日本国総領事館は「その動向は承知しており、日本政府としては、慰安婦問題を政治問題、外交問題化させるべきではないと考えており、こうした立場に基づき、米国における慰安婦問題について、適切に対処していく」と述べた。

 慰安婦碑設置に議論が続くフォートリーは、毎年5月に国際子供の日のパレードが開催されて鯉のぼりなども市役所前に掲揚されるなど、かつては日本人家族が多く住むエリアだったが、最近は韓国系、中国系の増加が目立つ。

 慰安婦碑は同郡パリセーズパークにもすでに設置されており、これまでに日本の議員団が撤去の申し入れを行ったが、行政当局から「撤去の意志はない」と断わられたいきさつがある。