教え子に乱暴、墜ちた”郷土の英雄” 容疑で逮捕五輪覇者に何が… 事件の背景に悪弊?
教え子の準強(ごう)姦(かん)容疑で、アテネ、北京両五輪の男子柔道金メダリスト、内柴正人容疑者(33)が逮捕された事件。日本が生んだ世界屈指の柔道家が、コーチを務める大学の柔道部で未成年の女子部員に“不適切”な行為をしていたことが発覚し、柔道界は大きく揺れている。「不祥事の背景に、柔道界の一部に根付いた“悪弊”があったのではないか」。そう指摘する関係者もいる。捜査関係者らへの取材から、事件に迫った。
今年9月19日夜。東京都内の飲食店で7人の男女が談笑していた。ビール、焼酎、ワイン、チューハイ…。グラスの酒は次々に飲み干されていく。この7人は、九州看護福祉大(熊本県玉名市)の女子柔道部員らと、コーチを務める内柴容疑者だった。
この日は、女子柔道部の合宿の最終日。「内柴容疑者と、別のコーチ、女子部員は相当量の酒を飲み、かなり酔っていたようだ」。捜査関係者は話す。内柴容疑者らはさらに、二次会でカラオケ店に行き、そこでも酒を飲んだ。宴会が始まって、すでに数時間がたっていた。
“事件”は、この後に起きた。
内柴容疑者が他の部員らを残し、1人の泥酔した女子部員と2人きりで消えていったのだ。警視庁捜査1課の調べでは、内柴容疑者は、介抱するように女子部員を背負ってホテルに戻ったが、そのまま一緒に女子部員の部屋に入った。そして、酔った女子部員に、コーチとしてあるまじき行為をはたらいたとされる。
翌朝、内柴容疑者は眠り込んだ女子部員を置いたまま、そっと部屋を出た。酔いも覚め、何かを感じたのか、事件後には女子部員に謝罪のメールを送った。
しかし、その夜の噂は、すぐに学内でささやかれるようになった。内柴容疑者は、同僚だったコーチに「誘われて、その気になってしまった」という趣旨のメールを送ったが、女子部員の関係者は大学に調査を依頼。内柴容疑者は間もなく謹慎となり、週刊誌で疑惑が報じられた。
11月29日、内柴容疑者は大学から懲戒解雇処分を受けた。そして今月6日、捜査員の要請を受け、東京・霞が関の警視庁本部へ同行されて逮捕された。
捜査1課は、内柴容疑者の行為を、抵抗できない状態の女性に乱暴する「準強姦」だったと判断した。
「納得できない。介抱するつもりで部屋に入った。行為も合意の上だった」
同課によると、内柴容疑者は、こう容疑を否認したという。その後も、落ち込んだ様子はなく、淡々と調べに応じているという。捜査関係者は「そもそも、泥酔している女性と『合意』が成り立つのか」と、内柴容疑者の主張に首をひねるが、一貫した否認は変わらないという。
(中略)
「柔道界には、一部で、強いやつは何やってもいいという風潮があるのは事実。(内柴容疑者が卒業した)国士舘大学は、上下関係が厳しいことで知られている。そうした風土が、間違った形で染みついていたのだろうか」
別の元柔道選手は、こう話す。心身の強さを追い求め、先輩後輩の上下関係を尊重する。武道の美徳ともいえるが、逆にマイナスにはたらいているということなのか。
「大学の運動部には、『先輩の言うことは絶対』というような風潮が散見される。今回の事件は、そうしたパワハラ行為の一環ではないか。内柴容疑者だけの問題に矮(わい)小(しょう)化せず、関係者は反省すべきだ」。スポーツライターの玉木正之氏は、こう指摘する。
今月8日、内柴容疑者に熊本県から授与された2つの県民栄誉賞の取り消しが発表された。名誉も信頼も指導者の立場も、すべて失った“郷土の英雄”に、おごりや油断はなかったのか。
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