日本政府が、国連の女性差別撤廃委員会に対し慰安婦の強制連行を否定した。
少し正確に言うと、軍と政府当局による慰安婦の「強制的な連れ去り(forceful taking away)」は調べたが確認出来なかったと回答した。
これは、なでしこアクションの山本代表らが、昨年女子差別撤廃委員会で訴えてくれたお陰なのだが
(詳しくは、なでしこアクションのサイトを参照)、彼女らの訴えを聞いた委員会が日本政府に対し、慰安婦の
強制移動(forcible removal of “comfort women”)が無かったという話は本当なのかと問い合わせ、それに対し日本政府が、調査した範囲ではそれを裏付ける文書は確認されなかったと回答した。日本政府は、慎重を期して「
軍と政府当局(による強制連れ去り)」と主語を補って回答している。
日本語訳(仮訳)では、forcible removalとgovernment authoritiesはそれぞれ、「いわゆる強制連行」「官憲(による)」と訳されているが、官憲とすると例によって「スマラン事件が!」と騒ぐ確信犯がいるので、政府当局と訳した方がいいのではないか(英語に堪能な方の意見求む)。これは逆に国内を意識した日本語訳なのかもしれない。
英語の原文には「いわゆる(強制連行)」などとも書かれていない。
追記: コメント欄にも書いたが、「官憲」という訳は河野談話(「本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあった」)を意識したものではないか?
とにかく、国際社会に慰安婦問題を説明する際には誤解を避けるべく用心深くあらねばならない。岸田外相が「
丁寧に答えた」と述べたのは、そういう意味ではないか。今回の英文はよく考えられていると思う。慰安婦問題を日韓の政治問題であることを印象づけ、ある意味直訳になっていない日本語訳と英語のニュアンスの違いを見ると、単なる役人の事務仕事ではなく、担当者の意識も高かったのではないかと思われる。
強制動員否定は韓国メディアでも報じられた
[質問] The Committee has been informed of recent public statements that there was no evidence that proved the forcible removal(強制移動)of “comfort women”.
[回答] With the recognition that the comfort women issue continues to impact the development of Japan-ROKrelations, Governments of Japan and the ROK agreed at the Japan-ROK (引用者訳:慰安婦問題が日韓関係の発展に影響をもたらし続けているという認識に基づき) Summit Meeting held on November 2, 2015, to continue and accelerate consultations on the issue toward its conclusion as promptly as possible. (中略)
Regarding the question on the “recent public statements that there was no evidence that proved the forcible removal of ‘comfort women’ ”:
The GOJ has conducted a full-scale fact-finding study on the comfort women issue since the early 1990s when the issue started to be taken up as a political issue between Japan and the ROK. The fact-finding study included
1) research and investigation on related documents owned by relevant ministries and agencies of the GOJ,
2) document searches at the U.S. National Archives and Records Administration, as well as
3) hearings of relevant individuals including former military parties and managers of comfort stations and analysis of testimonies collected by the Korean Council.
“Forceful taking away” of comfort women by the military and government authorities (引用者訳:軍と政府当局による慰安婦の「強制的な連れ去り」)could not be confirmed in any of the documents that the GOJ was able to identify in the above-mentioned study.
日本政府が慰安婦の「強制連行」を否定したというニュースに
韓国メディアや一部の日本人はさっそく不満を言っているが、韓国政府の報道官は「強制性は否定できない歴史的事実だ」と
形式的なコメントこそ述べているが、本気さは感じられない。日本の野党や新聞も特に問題にする様子は見えない。いわゆる「強制連行」の有無については、少なくとも日本での議論は決着したと見ていいのだろう。また、日韓合意のせいで日本の冤罪を晴らせないというのも杞憂と言えよう。今回は図らずも、民(なでしこアクション)が国連の場で問題を提起し、国がそれをフォローするという理想的な展開になった。よい前例である。
なお、日本政府による
日本語訳は自分のとは少し違う。リンク先を参照されたい。
「慰安婦の強制連行は確認できず」 政府、国連へ答弁書
政府は、慰安婦問題について、国連女子差別撤廃委員会(スイス・ジュネーブ)に「政府の調査では、日本軍や政府による慰安婦の『強制連行』は確認できなかった」とする答弁書を提出した。16日の同委員会会合で、杉山晋輔外務審議官が趣旨を説明することを検討している。
答弁書は、昨年8月に委員会から受けた質問への回答。女性の地位に関する22項目の質問の一つが、慰安婦問題で「慰安婦の強制的な連行を証明するものはないという意見がある。日本政府のコメントを求める」との内容だった。
政府は答弁書の冒頭で、慰安婦問題は昨年末、日韓両政府が「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認した」と説明。総合的な調査の結果、「政府が確認したどの文書でも、日本軍と政府による慰安婦の『強制連行』は確認できなかった」とした。
「アジア女性基金」による償い事業については、対象とならなかった中国や東ティモールに広げることや、当時の加害者を訴追する考えはないと回答した。
外務省幹部は「答弁書は、国連委から質問を受けたために政府見解を踏まえて作成した。日韓合意を着実に履行していく立場は変わりない」と話す。
※ 国連の女性差別撤廃委、慰安婦問題など議論 3月7日に見解公表へ
※ 政府 国連で慰安婦問題の日韓合意を説明 2月17日 (NHK)