2010/12/18

中山成彬と安倍首相、オランダを怒らせる (07年)梶村太一郎



三年前の季刊中帰連に掲載された梶村太一郎の文章から、もう少し振り返ってみる。左ばかりではない。右もしばしば国益を害する。しかも困ったことに、その自覚がなかったりする。

ところで、「歴史修正主義者」が大半を占める安倍政権下の国会で、辻元清美衆議院議員が八日に提出した「安倍首相の『慰安婦』問題への認識に関する質問主意書」(下注参照)に対する、安倍内閣総理大臣による政府答弁書が出されたのは一六日のことだ。

彼女が即時それをHPに掲載したところ、AP通信が引用し「この政府公式見解には『政府は発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった』とあり、強制売春には証拠がないと主張している」と速報した。


※ 参考までに、辻元の質問主意書とそれに対する答弁書をここに上げておく。






オランダのバルケンエンデ首相は一九日、同国の公共ラジオで「わたしがこの報道を知ったのは、この日の閣議の席です。この報道は確かなもので、急いで外務大臣に日本大使に接触するようその場で要請しました。決して無視できないことですから」と述べている。

一七日のオランダの主要紙は「日本大使を召喚」との一面の記事で「首相は慰安婦に強制的に売春行為をさせたことを否定する日本政府に立腹している。・・・この種の発言について過去数週間に何度か説明を求めているのに明確な回答を得ていないので、日本大使の召喚を決定した。

首相は『日本政府の最近の方向転換の理由がなんであるのかに非常な関心がある。(新たな否定に)不愉快な驚きを覚えている』と述べた」と伝えた(NRCハンデルスブラット紙。村岡崇光氏の翻訳による)。オランダの首相が激怒するには十分な理由があるのだ。


中山成彬

ところで、中山成彬議員を会長とする自民党の国会議連「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」が八日に政府に対して提出した「慰安婦」問題での提言書に、次の言葉がある。

「我々の調査では、民間の業者による本人の意思に反する強制連行はあっても、軍や政府による強制連行という事実はなかった。一件だけ、ジャワ島における『スマラン事件』があったが、これは直ちに処分されており、むしろ軍による強制連行がなかったことを示すものである」

すなわち、彼らですら否定することができない強制連行の証拠がオランダ人「慰安婦」に関してあるのだ。・・・



「強制連行は一件だけあった」、 本当にこんな事を言ったのか?言ったらしい。産経新聞の阿比留記者によると、実際中山はこの通り発言したようだ。

そもそも「強制連行」という言葉は、主に朝鮮半島からの戦時動員に対して用いられた言葉であった。日本人であれば徴用や勤労動員といった言葉をあてられる所を、朝鮮人の場合はこの言葉が使われていたのである。なぜか?金英達は、「恨みをこめて」こういう言い方がされるのだと解説している。

中山は、その経緯を忘れ、スマラン事件を「強制連行」と言ったことで、徴用の話を戦地での不法行為にすり替えた学者や市民運動家の土俵に乗ってしまったのである。彼は関係者が処罰されたから問題ないと言っているが、そういう話ではないのである。そもそも、この処罰は連合軍によるものであった(異説もあるようだが)。

こういう不見識なことを口走るから、以下のような主張を許すことになる。

(スマラン事件を含む調査報告書は)いわゆる「慰安婦」問題とは、事実において「日本軍による直接の強制売春でもあった」ことを証明する動かぬ証拠史料である。・・・オランダ政府が、「日本政府は見解を変えた」と判断して釈明を求めるのは、極めて正当な要求である。




「我々は国益を守るためにやってるんですよ。・・・これは国家的ないじめ・・・反論すべき事は反論していく」と、中山は言う。たしかに、これはイジメである。しかし「愛国者」中山の言動は国益を損ない、結局敵を喜ばせただけだった。