パク・ユハ教授のキーワードは「帝国主義」らしい。彼女の新しい本のタイトルも「帝国の慰安婦」。「なぜ、慰安所に日本人だけでなく朝鮮人や台湾人がいたのか?そこを私は考えていただきたいと思います。・・・元凶は・・・帝国主義というシステムにあったのです」と言う。さらに、慰安婦問題を「帝国主義に基づく性の収奪」と捉え直せば解決策になるかもしれない、米蘭仏にも共通の問題であったと国際社会にアピールできると提案する。・・・そうかなぁ。
この問題を、日本が「帝国主義に基づく性の収奪」ととらえ直し、反省の意を国会決議として出せば、最高の解決策となるかもしれません。そうすることで、日本だけでなく、アメリカやオランダ、フランスなどの元帝国にも共通の罪だということを国際社会に示せることでしょう。
あの時点では同化は完全ではなかったが、事実として朝鮮人は日本国民であった。彼女の中では沖縄(ウチナンチュ)の慰安婦はどういう位置づけになるのか?男たちは命を女たちは性を国に捧げさせられた、慰安婦は暴力を経験したというなら、男たちだって現場でビンタの洗礼を受けていたのである。そもそも(特に内地人の)男性が有無を言わさず徴兵されたのは事実だが、女性が性を捧げさせられたというのは無理があるのではないか?
自国民でない女性たちの性を収奪し、苦痛を与えることが起きた元凶は、実は帝国主義というシステムにあったのです。
この括りでは、朝鮮戦争の慰安婦は救われないのは彼女も分かっているだろう。帝国主義で括るのならば、女性に限定する理由もない。中国のような多民族国家なら兵士の民族も多種多様である。イギリスのロイヤル・スコットランド連隊は「被害者」なのか?
男性が兵士として徴集された場合は、恩給や遺族年金など国からの補償がありますが、慰安婦としてつれていかれた女性たちにはありませんでした。法的補償の代わりに金銭を与えるシステムになっていたわけです。それは、近代国家の女性差別の表れでもあります。戦場に彼女たちを向かわせたのも、社会のいわゆる「売春婦」差別だったと考えています。
従軍看護婦には軍属とそうでない者がいたが、軍属でない者は恩給を受けていないはず(要確認)。売春婦だから差別(区別)されているのではなく、従軍看護婦の面倒は日赤が、慰安婦の場合は抱え主(慰安所の経営者)が面倒見たのである。仮に慰安夫がいれば、男だろうと同じ扱いだったろう。
それから、ストレートに米軍慰安婦の存在を突きつけてもはぐらかすのに、日本が反省して見せたからといってアメリカが日本に倣おうとは思えない。他人事のように振舞うだろう。フランスもオランダも。欧米は、「帝国主義に基づく性の収奪」などというアイディアには興味は示さないと思う。
※ タイトルは中央公論がつけたもので、自分の意図を反映したものではないとパク・ユハ教授が断っている。
慰安婦報道の大罪
国家による「性の収奪」は万国の罪である
「強制連行はなかった」と報じた韓国メディア
朴裕河世宗大学日本文学科教授
朴氏は慰安婦について、日本だけの責任にしては問題の本質を考える機会が失われると発言している
ようやく立場をはっきりさせた『朝日新聞』が過去の慰安婦問題の検証記事を出したことを、私は基本的に評価しています。内容には少し問題もありますが、あれだけ攻撃されていた『朝日』が、今回立場をはっきりさせたことです。ポイントは、「女子挺身隊」と「慰安婦」を混同して誤用していたと認めたこと。そして軍が組織的に「強制連行」に関与したという過去の報道を撤回した、そのうえで日本政府に責任があるとしていることです。そのような全体の枠組みは私の考えにも近いものです。
私自身は、少なくとも朝鮮人に関して、日本が国家として物理的な強制性をもって女性を連行することはなかったと把握しています。日本軍が慰安婦という存在を必要としたのはたしかで、政府はそれに関する指示も出しています。しかし、誘拐や人身売買といった強制的な方法を国が主導したという状況はいまのところ見えません。
ところで、記事では当時オランダ領インドネシアにいたオランダ人女性も慰安婦にされたことが示されています。
が、私はオランダ人と朝鮮・台湾人の問題は別に考えたほうがいいと思います。朝鮮・台湾は日本の植民地でしたが、オランダはインドネシアを介しての敵国でした。それぞれの国の日本軍との関係は解決を求めるにおいて重要です。
この『朝日』の検証記事について、韓国メディアはおおむね公平で誠実な報道をしました。多くは「安倍政権に対する『朝日』の反撃」を主題にしながら、吉田清治氏の証言が虚偽だったこともきちんと報じていました。唯一、日本批判を重ねてきた『朝鮮日報』は吉田氏の件に言及しませんでした。
植民地における物理的強制性を否定した今回の記事は、この問題を考えるのに必要なことだったと思います。朝鮮人慰安婦の全員が強制連行されたかのように言われるのは日本人にも不満だったことでしょう。しかし募集において国家による物理的強制性がなかったとしても、朝鮮人慰安婦たちは現場で暴行と強姦に遭ってもいました。物理的な強制性を私も否定しますが、そういう文脈から『朝日』の記事に、おおむね同意します。
それでも責任は免れない
物理的強制性の有無をはっきりさせる必要はありますが、たとえ強制でなかったとしても、「国家が女性を収奪した」ことは間違いありません。
「もともと売春婦だったのではないか」と言う人がいますが、そんなことは重要ではありません。女性が自発的についていったとしても、それは需要があったためで、そのようなシステムを考えた国に責任があるのです。現在、「強制連行だったか否か」が論争の的になっているわけですが、「日本の責任」という点で言えば、強制性の有無もあまり関係ないというのが私の考えです。
売春として代金を支払ったのだから、責任が果たされたはずだという意見もありますが、それは違います。男性が兵士として徴集された場合は、恩給や遺族年金など国からの補償がありますが、慰安婦としてつれていかれた女性たちにはありませんでした。法的補償の代わりに金銭を与えるシステムになっていたわけです。それは、近代国家の女性差別の表れでもあります。戦場に彼女たちを向かわせたのも、社会のいわゆる「売春婦」差別だったと考えています。
私は、ここに帝国主義というシステムの問題が関わっていると考えます。日本に限らず、当時は列強各国がアジアの国々を植民地化するという帝国主義がはびこっていました。日本も朝鮮半島を植民地にして、朝鮮人を自国民として従わせていました。男性たちが兵士として国に命を捧げたように、女性たちは性を捧げさせられた。それが日本国民の務めだという考えのもと、「愛国臣民」として女性たちをつれていったのです。そこには日本人慰安婦もいましたが、数が足りなかったので、朝鮮人女性が動員された。そのような構造の中で「売春婦」かどうかは重要ではありません。
なぜ、慰安所に日本人だけでなく朝鮮人や台湾人がいたのか? そこを私は考えていただきたいと思います。自国民でない女性たちの性を収奪し、苦痛を与えることが起きた元凶は、実は帝国主義というシステムにあったのです。先にオランダ人慰安婦と区別すべきと述べたのは、このためです。
そしてこの問題は、戦争中に限ったことではありません。軍隊は移動、隔離され、そこでは必ず、「性の問題」が起こり得ます。現代における日韓の米軍基地問題ともつながる問題なのです。
他国に先駆け国会決議を
この問題を、日本が「帝国主義に基づく性の収奪」ととらえ直し、反省の意を国会決議として出せば、最高の解決策となるかもしれません。そうすることで、日本だけでなく、アメリカやオランダ、フランスなどの元帝国にも共通の罪だということを国際社会に示せることでしょう。
現在、朴政権が慰安婦問題にこだわっている背景のひとつに、二〇〇五年に韓国で日韓会談文書が公開され、韓国政府が慰安婦個人の日本への賠償請求権は残っているとしたためです。そのあと、韓国政府がこの問題解決のために働きかけないのは憲法違反との訴訟が起こされ、二〇一一年の夏に勝訴しています。
日本を相手とする行動において韓国では左派が中心になることが多いのですが、そもそも韓国の右派左派は、植民地時代に国家に協力した側と抵抗した側で分かれます。両者の歴史認識の違いから、現在国内の対立が激しくなっている部分もあり、内部冷戦的な現在の葛藤の根本が植民地時代にあったことを、日本の皆さんにはぜひ知っていただきたいと思います。
この問題を解決するには、新しい層に議論に加わってもらうことが必要です。二〇年以上前から両極端に分かれて対立している人たちは議論の接点を見出し、歩み寄れる新しい議論の空間を作るべきです。党派的不信を乗り越えられる第三者たちが、合理的かつ倫理的に議論ができるといい。
そういう意味で、今回の『朝日』の記事はひとつのきっかけになり得るのではないでしょうか。