2015/04/07

安倍首相はニューズウィーク、ワシントンポストに何を語ったか


安倍首相にはこれまで二度、アメリカの有力紙(誌)に慰安婦問題について釈明する機会があった。まず、2007年のニューズウィークのインタビュー。NW誌は安倍首相に、日本軍が計画的に慰安婦に性サービスを強制したという認識がないのか、と質問している。おそらく、彼らの認識はそうなのだろう。日本軍による計画的な強制・・・であったと。

(ニューズウィーク 2007.4)

-- 貴方は本当に帝国陸軍に朝鮮人や中国人その他の女性を日本兵相手の性サービスに強制する計画が無かったと信じているんですか?

戦時慰安婦として連れて行かれた人々に対して心の底から同情申し上げます。人として同情の気持ちを表すとともに、日本国総理として彼女たちに謝らねばなりません。20世紀は、世界のあちこちで人権が侵害された世紀でした。その点で、日本にも責任があります。私は、謙虚な気持ちで自分たちの歴史を見、常に自分たちの責任について考えていかねばならないと信じています。

-- 貴方は現在、帝国陸軍がこの女性たちをそのような状況に強制したと信じていますか?

戦時慰安婦の問題に関して、私の内閣はずっと河野談話(1993年に売春宿に関して部分的に責任を認めたもの)を踏襲すると言ってきました。我々は、当時の状況下で、この女性たちに慰安婦としてあの困難と痛みを強いて(強制して)しまったことに責任を感じています。(NW 2007.4.29)

「20世紀は、世界のあちこちで人権が侵害された世紀でした。その点で、日本にも責任があります・・・」安部首相の答えは要領を得ないものであった。そこで記者はもう一度質問するのだが、安倍は「慰安婦としてあの困難と痛みを強いて(forced=強制して)しまったことについて(日本国には)責任がある」と答えている。甲斐性がなくて女房に苦労を強いてしまったといった程度の意味なのだろうが、NW誌の記者や読者は果たしてそう受け取っただろうか?

(ワシントンポスト 2015.3)

NW誌が河野談話を「売春宿について、部分的に責任を認めたもの」と冷淡に解説したのと異なり、先月のワシントンポストは「慰安婦として苦労した全ての人々に、日本政府が心からの謝罪と自責の念を述べたもの」と解説。8年の間に河野談話に対するアメリカでの評価が上がったのかもしれない。さて、そのWP紙のインタビューでは、安倍首相はこう語っている。

慰安婦に関する質問についてですが、人身売買の犠牲となり、計り知れない苦痛と言葉では言い表せない苦難を経験した人々に対して、私は心の痛みを覚えます。この点において、私はこれまでの総理大臣たちと考えは変わりません。これまで、歴史上たくさんの戦争が起こりました。その文脈で、女性の人権は侵害されてきました。私の願いは、21世紀が初めて人権が侵害されることのない世紀となることであり、そのために日本は最大限のことをします。(WP 2015.3.26)

このインタビューで首相が「人身売買」という言葉を使ったことで、韓国メディアは大いに沸いた(これについては、いずれ)。知る限り、アメリカでは特に気にする者もいなかったようだが。

人身売買というのは、当時の公娼制度のことを言っているのだろう。当時の日本では白。つまり人身売買には当らなかったが、(現在の?)アメリカでは黒。というわけで、安倍は大人の事情でアメリカのスタンダードに合わせたのである。アメリカ政府とは打ち合わせ済みだったと思われる。韓国メディアとしては当時の社会が悪いでは納得いかない。で、「安倍また妄言」(media today)などというタイトルもあった。



As you know, your comments on “comfort women” caused an outcry in the United States. Do you really believe the Imperial Army had no program to force Korean, Chinese and other women to provide sexual services to Japanese soldiers?

I have to express sympathy from the bottom of my heart to those people who were taken as wartime comfort women. As a human being I would like to express my sympathies, and also as prime minister of Japan I need to apologize to them. The 20th century was a century in which human rights were infringed upon in numerous parts of the world, and Japan also bears responsibility in that regard. I believe that we have to look at our own history with humility, and we always have to think about our responsibility.

Do you now believe that the Imperial Army forced these women into this situation?

With regards to the wartime comfort-women issue, my administration has been saying all along that we continue to stand by the Kono Statement [a 1993 acknowledgment of Japan’s partial responsibility for the brothels]. We feel responsible for having forced these women to go through that hardship and pain as comfort women under the circumstances at the time.


Mr. Prime Minister, let me ask you a question about history: Every country thinks about its history; every country wants to feel comfortable with its history. You sometimes are called, by critics and friends alike, as someone who’s a “revisionist” — who wants to say that some of the things that Japan has been accused of doing in its past, as dark as it was, some of those things aren’t true. So I want to ask you: Is it accurate to say that you are a revisionist–that you would like to revise the picture of Japan so that it is, in your view, more accurate?

A: My opinion is that politicians should be humble in the face of history. And whenever history is a matter of debate, it should be left in the hands of historians and experts. First of all, I would like to state very clearly that the Abe cabinet upholds the position on the recognition of history of the previous administrations, in its entirety, including the Murayama Statement [apologizing in 1995 for the damage and suffering caused by Japan to its Asian neighbors] and the Koizumi Statement [in 2005, stating that Japan must never again take the path to war]. I have made this position very clearly, on many occasions, and we still uphold this position. Also we have made it very clear that the Abe cabinet is not reviewing the Kono Statement [in 1993, in which the Government of Japan extended its sincere apologies and remorse to all those who suffered as comfort women].

On the question of comfort women, when my thought goes to these people, who have been victimized by human trafficking and gone through immeasurable pain and suffering beyond description, my heart aches. And on this point, my thought has not changed at all from previous prime ministers. Hitherto in history, many wars have been waged. In this context, women’s human rights were violated. My hope is that the 21st century will be the first century where there will be no violation of human rights, and to that end, Japan would like to do our outmost.

12 件のコメント:

  1. 日本に“おしん”のような年季奉公があったと知ってる
    欧米人は少ないですね。
    おしんのケースだって、
    親は少しばかりの金は受け取ってますから
    そういう日本の習慣の延長線上に慰安婦における
    慰安婦の親と慰安婦業者の取引きがありとなりますね。
    年季奉公は江戸時代までさかのぼり、
    町人文化としても定着していて明治時代から
    戦後すら商業において
    その名残りとして続いていました。
    店を継ぐために老舗に修行のために
    三年くらいとかでね。

    戦前は民法による家長制度があったので
    親の立場は強かった。
    逆に言うと、娘は親に無断で勝手に
    慰安婦にはなれません。
    慰安婦業者が娘とだけ話をつけると
    親は誘拐事件として官憲に申し立てます。
    これを欧米人にどう理解させたらいんでしょ?と
    日本の大学にいたことがある左派系の
    白人学者らは特に曲解が酷いです。
    その連中が米国の歴史教科書で
    いいように日本についてウソを書きます。

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    1. 自称「知日派」が最も厄介ですね。
      結構上から目線で野蛮な日本を批判する奴も多い。
      最近図書館で借りた本でも、鎖国とキリスト教排斥が、支配者の都合で行われたという視点で書かれていて、がっかりしました。おまけに、尖閣問題で中国と争うのを第2の鎖国と呼び、批判してました。
      10年前の本ですから、現状では孤立していくのは中国だと思いますけどね。

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    2. シリカ太郎さん

      おしんは確か米一俵で身売りでしたね?しかも仲介人は両親と雇い先両方に嘘をついていたという・・・。

      >これを欧米人にどう理解させたらいんでしょ?と

      私は米国のIndentured servant(年季奉公)を例に挙げて説明するのがいいと思うのですが、以前コメント欄で意見が割れましたね。

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    3. Eiji Nakanoさん

      知日派、日系人が実は一番厄介かもしれません。

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    4. アメリカの知日派は、「日本を知っている」のではなく「日本の扱い方を知っている」という意味の人が多いからでしょうかね。
      一番厄介なのは、「サヨク」系の自称人道派日本人ですけど。

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  2. 安倍首相が「人身売買」発言をしたのは米国政府と打ち合わせ済みで、この発言をすることで、日本の首相としては初めての米国議会演説(韓国の大統領は6回)が許された。

    今、「深層NEWS」で小林よしのりが発言中。「人身売買」を認めることは「性奴隷」をもとれることで、これは米国の意向通りだとか...。

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    1. 米国の要求を首相が呑んだのだと思います。
      ただ、これで米国が慰安婦を性奴隷だと声高に言うようになるかといえば、私はそんな事はないと思います。首相も演説に前向きだったのでしょうが、米政府の方も演説させたかったのではないでしょうか?首相の一方的な譲歩だとは思いませんが、取引に応じて譲歩したのは否定出来そうにありませんね。

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    2. 微妙ではありますが、アメリカの最近の発言から言えば、特に安全保障に関する韓国の態度にかなり腹を立てていて、この問題で韓国よりの態度は示さないでしょう。

      慰安婦問題を騒げば、日米安保にも亀裂が入りかねず、日本も以前より物を言うようになったために、日本を押さえつけるだけでは東アジア(西太平洋)でのプレゼンスの確保はむずかしいからでしょう。

      安全保障面では、近い将来韓国を切り離して、在韓米軍撤退の可能性が高いと思います。大使襲撃もかなり影響あると思いますし。

      もう一つがAIIB問題だと思います。あれは明らかなアメリカ中心の世界秩序への挑戦なので、アメリカの親中派もさすがにやりにくい。
      AIIBの実態は、資金力にかなりの不安があるので、それ自体かなり危ういと思いますが、ヨーロッパの参加をみて、アメリカには対中国への不信感と同盟関係柄の不安が募ってるという状態です。

      アメリカの政権にとっては、慰安婦問題は特にメリットがないし、うっかりすれば巻き込まれる可能性もあり、今までは日本軍慰安婦は特別なものとして距離を置いてきたが、ここで日米同盟まで弱体化する行動は回避したいところでしょう。

      もちろん環境変化で、将来悪用される恐れがあるが、無策よりはいいのではないかと思う。少なくともアメリカ政府との妥協は、今後の慰安婦像設置に与える影響が大きい。

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    3. 安倍首相の人身売買発言について自分の考えをまとめ中、と宣言したっきりになってますが、なんとかまとめないと・・・。

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  3. 山路 敬介2015年4月9日 5:55

    WPでの見解はお得意の観測気球的なものと考えていましたが、米政府や議会共和党との議会演説に向けた共同作業の実行に着手した、と見ていいようですね。
    ただ、誰が人身売買の首謀者(あるいは実行者)か?という点が明確に語られておらず、余地を残した形にもなっているんですが、発言を受けての民主党左派の動きは、はっきり掴めないですね。
    この静けさはHuman Traffickingが、Sexul Slaveryの前提条件であり、安倍の明確な譲歩の一過程であると受け止めているからでしょう。

    日本の年季奉公や公娼制度はHumann traffickingとは意味が明瞭に違いますから、この譲歩は慰安婦問題に関してだけ言えば、日本の保守派にとっては河野談話以来の売国発言に等しいかも知れない。
    譲歩して問題が沈静化せず、得られたものが議会演説をした実績だけだった、となれば安倍の責任は限りなく大きいでしょう。
    なにしろこの問題に関しての日本側の発信に対する受け止めは、ラチェット式ですから後戻りがきかない。
    安倍さんは大きな賭けに出たんでしょうが、うまくいくかどうか。

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    1. >日本側の発信に対する受け止めは、ラチェット式ですから後戻りがきかない。

      うまい表現ですね。仰る通り、日本政府はこの線から後退は出来なくなりました。ただ、国務省(米政府)は以前、性奴隷かどうかはケースバイケースだと言っていましたし、慰安婦=性奴隷という風にはしないだろうと私は予想しています。”米政府の公式見解”では、慰安婦は人身売買の被害者以上でも以下でもない、ということでしょう。米政府もこの線から大きくは動かないでしょう。慰安婦がHuman Traffickingの被害者だと規定しただけで、誰が加害者かについては曖昧にしておくだろうと思います。ベトナム戦争や朝鮮戦争の話も出て来ている状況で、ここをハッキリさせると米国にも火の粉が飛びますから。

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  4. trafficの原語は貿易とネット辞書にはあります。日本のFMラジオでは「朝のトラフィック情報をお伝えします」とそのまま使われています。なんじゃそれと思ったら交通情報の事でした。自分のテリトリーを越えた人や物の行き来を意味し、最近はデーターのやり取りを意味するコンピューター用語にもなっています。国境を越える行き来なので、許可なく行われる場合の密貿易を指す事にもなるが本来の意味に善悪の判断は含まれない。

    ヒューマンもそのまま日本語として使われて、心暖まる人間的な行いを形容します。神や動物から区別される、人というものについてということだから、これも善悪の判断はないが、和製英語では善的に使われる。

    「人情味あふれる交通」ってさぞかしいいものだろうな、、、という印象なのに、人身売買だと知ってのけぞってしまった。

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