家父長制、ナショナリズムを憎み、男性中心史観に反発して、慰安婦問題で日本の「歴史修正主義」と戦う上野千鶴子であるが、韓国の慰安婦運動に見られるナショナリズムは気になるようで・・・。
しかし、「挺対協のなかには『慰安婦』制度を日本の韓国に対する『民族絶滅』政策の一貫として位置づける説もあり」とは、何を今さらである。それは挺対協の初代共同代表であった人みずからが説いていたことではないか。
これは山下英愛の言説だが、「民族民主運動のなかで女性運動が認められるためのの生存戦略」というのは正しいだろう。なぜ朝鮮戦争時の慰安所が問題にならず、日本軍の慰安所に限って国を上げた大騒ぎになるのか、それは、運動家たちがこの問題を加害国日本と被害国韓国という構図で宣伝したからだろう。これによって元慰安婦は“抗日独立運動家”並みの英雄になり、国民的アイドルとなったのである。
...「軍隊性奴隷」パラダイムは、韓国の反日ナショナリズムのために動員されている。挺対協のなかには「慰安婦」制度を日本の韓国に対する「民族絶滅」政策の一貫として位置づける説もあり、民族対立が強調される。
「『慰安婦』問題に対する民族言説的な見方は、自民族中心的で多民族、他地域の被害者とのあいだに壁を築き、分断をもたらす」と山下ははっきり明言する。
韓国女性運動の民族主義的傾向は、「民族民主運動のなかで女性運動が認められるためのの生存戦略」であった、と山下(英愛)は見るが、他方、「国際的な連帯運動における女性問題としての盛り上がりに比べて、国内の女性運動や人権運動に及ぼした影響は極めて小さい」と山下は見る。「その理由は...そもそも国内では主に民族問題として接近し、しかも『慰安婦』に関する民族言説を覆す努力がほとんどなされてこなかったことにある。」
山下が紹介するキム・ウンシルによれば、
民族主義言説は性の蹂躙という記表に、より大きな象徴的意味を与えることによって、女性経験の特殊性を否認し、これを民族問題として普遍化する。言い換えれば女性でなく韓民族が日本という強姦犯によって蹂躙されたのである。民族問題であるために、強姦の犯罪はそれが日帝によって行われるまでは民族言説ではまったく意味を付与されない。
民族言説は女性を「民族主体」のなかに取り込むことによって、もっとはっきり言えば女性の利害を男性の利害に一体化(その実、従属)させることによって、ナショナリズムの動員のために利用する。
ナショナリズムとジェンダー 上野千鶴子
少し孫引きが多くなってしまうので、山下英愛の元の文章(「『慰安婦』問題の認識をめぐって」季刊アクロス 憲法を生かす市民の会季刊誌1944.11)を確認するまでは自分用のメモという位置づけで。