本岡が慰安婦の強制連行を国会で追求したことから政治問題化
1990年6月6日の参議院予算委員会。日本政府が「慰安婦は業者が勝手にやった、軍は関与していない」と言ったとされる。そして、これをキッカケにして慰安婦問題が政治問題化するのだが、本当だろうか?もう一度本岡昭次議員(社会党)の質疑を見返してみよう。もう一つ。日本政府がこの時から一貫して否定する慰安婦の強制連行。この時、「強制連行」という言葉がどういう文脈の中で持ち出されたのかも確認しておこう。前段は、朝鮮人強制連行の真相追及の場面。そして後段が慰安婦を巡るやり取り。
最初の部分で本岡が触れているのは、前月の竹村泰子議員(社会→民主)の質疑。これは次回紹介する。本岡の質疑に戻ると、彼は強制連行の記録が存在すると言っているが、恐らく特高月報には「強制連行」という言葉は使われていない(「強制連行」は戦後の俗語)。本岡が勝手に言い換えているのである。政府の担当者は、「徴用」という言葉で本岡の質問に答えている。本岡も、どういう法令に基づいて(強制連行が)行われたのか、と訊いているから、彼の頭にも強制連行=徴用のイメージがあるのだろう。
○本岡昭次君
・・・次に、強制連行の問題についてお伺いいたします。
竹村委員が前回質問をされたわけであります。その後作業経過がいろいろ新聞に出ておりますが、どういうふうな作業経過なのか、確認作業をやっておられるのか報告していただきたい。
○国務大臣(坂本三十次君)
いわゆる徴用者名簿の調査については、先週初めに内閣官房に労働、外務、厚生、法務等の各省庁関係者を集めて、政府として鋭意調査することを確認いたしました。[...]今後は労働省が中心となって各方面とも連絡しつつ、できるだけの調査をさらに続けることとなったわけであります。[...]
○本岡昭次君
ここに一九八七年に発行された「鉱山と朝鮮人強制連行」という本があるんです。この本には兵庫県の鉱山における朝鮮人の強制連行の実態が記録されております。
戦前内務省警保局が作成した極秘資料「特高月報」というふうなものから導き出して、兵庫県でも、一九三九年から一九四三年までに一万六百八人が兵庫県に 強制連行された、逃亡者は三千七百十七人であったとかいうようなことが出ているわけです。また、「兵庫県知事引継演述書」というようなものがありまして[...]それで、こうした強制連行というのは日本のいかなる法令によって行われたんですか。
○政府委員(清水傳雄君)
いわゆる朝鮮人の徴用につきましては、昭和十三年に制定をされました国家総動員法及びそれに基づきます国民徴用令、昭和二十年からは国民勤労動員令になっておりますけれども、これらに基づいて実施されたと承知をいたしております。[...]いろいろと諸手続はあったかと存じますけれども、基本的には以上のような法令に基づいているものと承知をしております。
○本岡昭次君 [...]そうした法令の定めるところによって日本に強制連行された人の人数、そして年次別に報告してください。
○政府委員(清水傳雄君)
当時の徴用関係の資料は労働省には保存をされておりませんものですから、現在まで鋭意調査をいたしておりますが、有権的に申し上げられるようなデータは残念ながら持ち合わせていない状況でございます。
○本岡昭次君
大変なことですね、法令によって強制連行しておきながら、何人だったかわからぬというのは。これ、どうにもならぬじゃないですか。[...] この強制連行の方式は、募集それから官あっせん、一般徴用令、軍による強制、女子挺身隊、勤労動員令、徴兵制というふうなものがあるというふうになっておるんですが、このとおりですか。
○政府委員(清水傳雄君)
国民徴用令によりますと、第二条におきまして、「徴用ハ特別ノ事由アル場合ノ外職業紹介所ノ職業紹介其ノ他募集 ノ方法ニ依り所要ノ人員ヲ得ラレザル場合ニ限リ之ヲ行フモノトス」ということにされておりまして、これによれば、国民徴用令に基づきます徴用の前段階といたしまして、文書なり門前募集人などによる募集とか職業紹介所の紹介による官あっせんが行われ、それでも必要な労働者が集められない場合に徴用が行われたものと考えられます。
○本岡昭次君
そうしたものを実行に移すために朝鮮半島でどのような体制をつくったのか。また、日本本土ではどのような受け入れ体制をつくったんですか。
法令に基づいてと繰り返す本岡。「強制連行」の諸手続きを説明する役人。「国家総動員法及びそれに基づきます国民徴用令・・・基本的には以上のような法令」に基づき、企画院が計画し、厚生省が方針を決定、朝鮮の場合は、各総動員業務の所管大臣の要請を受けた朝鮮総督府が徴用令書を出す(この煩雑な工程を見ると、露見を恐れて軍は文書を作らなかったという話は疑わしい)というのが、この時議論になった「強制連行」である。決して「強制的な連行(拉致・誘拐)」を強制連行と言ったものではない。
○政府委員(清水傳雄君)
全体としての業務の流れといたしましては、まず当時の企画院が全体の長期計画をつくりまして、それに基づきまし て厚生省の勤労局が需給調整の方策についての方針を決めまして、それからいわゆる国家総動員法に基づきます総動員業務なるものがあるわけでございますが、 そこに従事をするという形になる。
それを所管する所管大臣が内地の場合には厚生大臣に請求をする。それから朝鮮の場合には朝鮮総督府に請求をする。朝鮮の場合ですと、朝鮮総督府におきまして、その下部機構がそれに基づきまして徴用令書を出しまして、それに行き先でございますとか職業でございますとか業務でありますとか、そうしたものが記載をされておったようでございます。[...]
○政府委員(清水傳雄君)
全体の業務の流れといたしましては、総動員業務を所管する官庁の方が厚生大臣に請求をする、そこでいろいろの計画を、企業の状況を把握して、そういうふうな形がとられたのだろうと思いますが、それから、徴用令になりましてから企業も勤労局の方に直接申請をすること ができるような規定にもなっております。
○本岡昭次君 募集というのは、企業が募集したんじゃないんですか。
○政府委員(清水傳雄君)
先ほど申し上げましたように、徴用の前段階としての募集というものがまず行われておったようでございます。これは募集人とか、あるいは文書募集もございましょうし、そうした形で、直接的には企業の募集ということになろうかと思います。[...]
吉田清治の証言などにより
慰安婦強制連行(徴用)という都市伝説は広まりつつあった
そして、いよいよ慰安婦の話になる。男性の強制連行(徴用)は知られていたが、朝鮮半島で慰安婦が徴用されたという話は噂の域を出るものではなかった。労働省の役人は、「総動員法に基づく業務としてはそういうことは行っていなかった」と答えている。ここで労働省は、資料の不足をOBに聞き取りすることで補おうとしたらしい。「古い人の話等も総合して聞きますと、やはり民間の業者がそうした方々を軍とともに連れて歩いているとか、そういうふうな状況」で、労働省としては(!)これ以上調査のしようがないと答えた。これが後に、「業者がやったこと、国は関与していない」と答えたなどと揚げ足を取られる材料になるのだが(たとえば福島瑞穂)、読んで分かるように、本人はそんな意味で言ってはいない。
本岡は逆ギレして「強制連行とは、それでは一体何を言うんですか」「今国家総動員法というものの中で、それが範疇に入るとか 入らないとかと、こう言っておりますが、それでは範疇に入るものは、一体何人あったからそれはどうだとか言うんならわかるんですけれども、すべてやみの中に置いておいて、そういうものはわからぬということでは納得できない」と支離滅裂な事を言っているが、強制連行とか国語辞典にも載ってないジャーゴンを使った方が悪い。
○本岡昭次君
それから、強制連行の中に従軍慰安婦という形で連行されたという事実もあるんですが、そのとおりですか。
○政府委員(清水傳雄君)
先ほどお答え申し上げましたように、徴用の対象業務は国家総動員法に基づきます総動員業務でございまして、法律上各号列記をされております業務と今のお尋ねの従軍慰安婦の業務とはこれは関係がないように私どもとして考えられますし、また、古い人のお話をお聞きいた しましても、そうした総動員法に基づく業務としてはそういうことは行っていなかった、このように聞いております。
[...]従軍慰安婦なるものにつきまして、古い人の話等も総合して聞きますと、やはり民間の業者がそうした方々を軍とともに連れて歩いているとか、そういうふうな状況のようでございまして、こうした実態について私ども(引注:労働省)として調査して結果を出すことは、率直に申しましてできかねると思っております。
○本岡昭次君
強制連行とは、それでは一体何を言うんですか。あなた方の認識では、今国家総動員法というものの中で、それが範疇に入るとか 入らないとかと、こう言っておりますが、それでは範疇に入るものは、一体何人あったからそれはどうだとか言うんならわかるんですけれども、すべてやみの中に置いておいて、そういうものはわからぬということでは納得できないじゃないですか。
○政府委員(清水傳雄君)
強制連行、事実上の言葉の問題としてどういう意味内容であるかということは別問題といたしまして、私どもとして考えておりますのは、国家権力によって動員をされる、そういうふうな状況のものを指すと思っています。
○本岡昭次君
そうすると、一九三九年から一九四一年までの間、企業が現地へ行って募集したのは強制連行とは言わぬのですか。
○政府委員(清水傳雄君)
できる限りの実情の調査は努めたいと存じますけれども、ただ、先ほど申しました従軍慰安婦の関係につきましてのこの実情を明らかにするということは、私ども(引注:労働省)としてできかねるんじゃないかと、このように存じます。
引用はここまでにしようと思ったが、もう少し収録しておこう。「(韓国と)本当の意味の信頼関係なんというものはつくれない」と啖呵を切った本岡だが、このやり取りがキッカケとなり日韓関係が大きく壊れて行こうとは、この時知る由もなかったろう。
○本岡昭次君
どこまで責任を持ってやろうとしているのか、全然わからへん、わからへんでね、これだけ重大な問題を。だめだ。やる気があるのか。ちょっとこれ責任を持って答弁させてくださいよ、大臣の方で。[...]今のような労働省の役人の方が来られてぼそぼそぼそぼそやっているこの姿ね、本当に恥ずかしいと思いませんか。
それは盧泰愚大統領と海部総理大臣が、戦後の問題は終わった、過去はこれでと言ったって、やっぱり戦後処理の中の最大の問題が私も調べれば調べるほどここにあると。本当の信頼関係を樹立しようと思えば、やはりこの強制連行に始まったさまざまな朝鮮の植民地政策の具体的な中身は何であったのかということを 我々自身の手で明らかにすることを怠ったんでは、本当の意味の信頼関係なんというものはつくれない、こう思うんですよ。
(以下略)
第118回国会 参議院予算委員会 第19号