北朝鮮に同情的な韓国の進歩派文化人たちが「自由民主主義」の呼称にこだわる様は、日本の親韓進歩派が「従軍慰安婦」という言葉にこだわる様子に似ている。
ソウル・黒田勝弘 「江南左派」の全盛時代[緯度経度]
韓国社会に“江南左派”という言葉がある。「江南(カンナム)」とは首都ソウルを東西に流れる漢江の南の新市街地をいう。高層マンションや最先端のビジネスビルが林立し、シャレたファッション店や高級飲食店が集まっている。富裕層が住む地域の代名詞であり、韓国人にとってはあこがれの街だ。
歴史的には1970年代以降の高度経済成長によって生まれた。“漢江の奇跡”といわれた韓国経済発展の象徴である。
“江南左派”とは、自らは「江南」のような所で結構いい生活をしながら、大企業批判や反米的な主張を好み、北朝鮮を擁護・支持し、保守・右派非難に熱を上げる、いわゆる進歩的文化人のことをいう。
韓国社会では近年、そういう大学教授や文化人が人気だ。弱者、持たざる者、庶民…の味方を看板に、彼らの著書はよく売れ、若い世代を中心に政治的影響力が強い。
この現象は親北・左翼思想が広がった1990年代以降の民主化と、金大中-盧武鉉・革新政権(1998~2008年)によってもたらされたといっていいが、そのツケ(?)に韓国社会が悩まされている。
一つの例が歴史教科書における韓国版・自虐史観。国の発展ぶりよりも、野党や反政府・親北勢力に対する弾圧など“暗い話”を強調し、権力に対する抵抗ばかりたたえる左翼史観が支配してしまったのだ。
李明博・保守政権になってその手直しに着手したのだが抵抗が強く、ままならない。
最近も教科書で国のあり方についてはっきり「自由民主主義」と教えるべきだとの方針を出したところ、大騒ぎになった。左翼学者など左派・革新系は、これまで通り「民主主義」だけでいいではないか、「自由」は削除しろ-と激しく反発している。
保守・右派は「民主主義」だけだと北朝鮮がいう「人民民主主義」や「民衆民主主義」などでたらめな民主主義があるので、「自由民主主義」は当然という立場だ。左派の反対論の背景には北朝鮮擁護がある。
一見、迂遠(うえん)な韓国版“ガラパゴス現象”に見えるが、根本に学校教育で北朝鮮を否定的な国として教えるかどうかという現実問題があるため深刻だ。
韓国の学校では90年代以降、北朝鮮については独裁体制には触れず、社会主義的理想や「同じ民族」が強調されている。「経済難や核開発も米国がいじめているから」といった教育がなされてきた。
“江南左派”は最近、格差社会是正-福祉国家論で政権奪還を狙い、来年12月の大統領選に向け攻勢を強めている。
学校教育で「自由民主主義」さえ教えられないのでは、保守派は危うい。ソウル市長選の結果もそうだ。
左派・革新勢力をバックに福祉や市民主義を看板に当選した朴元淳・新市長は、哨戒艦撃沈など北朝鮮による軍事挑発を「韓国が北を刺激したから」と公言していた。北朝鮮に対し限りなく甘く優しいのが“江南左派”である。韓国政治の行方が気になる。
産経 2011.10.29