彼らを現地のコミュニティから孤立させられれば・・・
鄭大均が分析する韓国系とアメリカにおける慰安婦騒動の関係。運動は「日本たたきを生業とする」ごく一部の人間によって展開されていると。
以前、カリフォルニアのショッピングセンターに建てられた慰安婦の碑を調べに行った方が、現地の韓国系の誰も碑の存在を知らなかったと報告して下さったことがある。一部の運動家の独走。この点を的確に押さえ、彼らを現地のコミュニティから孤立させることだろう。実際日本の運動家たちは国内で孤立感を深めている(これについては、いずれ)。
慰安婦像は韓国系米国人の総意か 鄭大均・首都大学東京特任教授寄稿
米国における「慰安婦像」の設置や「東海」表記の問題が語られるとき、韓国系米国人や韓国系ロビーに言及されることがあるが、ピンとくる人は少ないのではないだろうか。
強い母国の結びつき
これは無理もない。日本人の多くは米国流のロビー活動になじみがないし、民族集団を通して米国を見るという習慣もない。むろん米国には日系米国人がいる。しかし彼らの多くは排日移民法が制定された1924年以前に渡米した人々とその子孫たちであり、日本との結びつきは希薄になっている。
これに比べると、韓国系米国人の母国との結びつきは強い。彼らの多くは70年代以後の移民であり、1世がマジョリティーである。彼らは韓国の親戚や友人とのつながりを維持し、米国にいながらも韓国語を日常的に使って暮らしている人びとであり、ロサンゼルス・タイムズやニューヨーク・タイムズを読む者もいるが、より多くのものはソウルで発行された韓国の新聞の「美州(米国)」版を手にして朝を迎えるのであり、ワシントンよりソウルの政治に関心があるという者も珍しくはない。
紐帯意識弱い日系
このような人々を韓国政府が放っておくだろうか。というより、海外に居住する同胞の人的資源を母国に還元しようとする動きはなにも韓国に限ったことではない。2010年の統計によれば、韓国系米国人146万人に対して日系米国人は84万人である(数字は混血を含まない)。かつてアジア系最大の集団であった日系人は、今日では中国系、フィリピン系、インド系、ベトナム系、韓国系に次ぐ6番目の集団であり、減少傾向にあり、母国との紐帯(ちゅうたい)意識も弱くなっている。つまり日系を除く他のアジア系米国人は、いずれも母国との強い絆で結ばれた、急速に成長中の集団であり、彼らを通して実はアジアの政治が米国に持ち込まれているのである。
海外移住とは、かつては故郷との離別を意味するものであったが、インターネットや携帯電話の時代は移住者たちを故郷から切り離してはくれない。韓国系米国人や在米韓国人と韓国の政治はこのようにして結びつくが、しかし、では「慰安婦決議」や「慰安婦像」と韓国系米国人がどのように結びつくのかというと、一般化しにくいこともあるし、分かりにくいところもある。
たとえば、米国における慰安婦問題を考えるときの最重要人物にマイク・ホンダという日系3世の下院議員がいる。カリフォルニア州議会議員時代から日本批判で知られていたホンダ氏はやがて米下院議員になると、慰安婦決議案を4回提出し、その4回目に同法案は可決された。2007年のことである。つまり、慰安婦を日本軍の「性的奴隷」とする決議に功があったのは日系3世だったのであり、「中・韓『反日ロビー』の実像」(PHP研究所)の著者、古森義久氏の言葉を借りるなら「慰安婦問題だから韓国系の構図」はここにはない。では、ホンダ氏の反日活動を突き動かしていたものとはなにか。古森氏が指摘するのは中国系反日組織である抗日連合会(世界抗日戦争史実維護連合会)とのつながりであり、その共闘を実践する思想的準備がホンダ氏にはあったのだろうという。
少数活動家の動き
一方で、同書は韓国系米国人と反日活動との間に有機的関係があるかに見える側面があることも指摘している。ロサンゼルス周辺であれニュージャージー州であれ、慰安婦の像や碑が設置されたのは韓国系住民の集住地域である。しかし「韓国系有権者の意思」がはたして有権者の「総意」といえるかどうかには疑問がある。「韓国系有権者のごく一部がそれを強く望み、多数派が黙っているだけなら、結果はいかにも全体がそれを望んでいるように映ってしまう」。多分重要なことは、ごく少数の日本たたきを生業とする政治活動家たちの動きであり、韓国系住民の多くはそれに反対しないということなのだろう。これに似た構図は実は韓国における日本たたきにも見てとれるのである。