2012/09/13

「事実がなければ誰が千回の集会を続けるか」 坂本義和教授

坂本義和がわざわざ中日新聞に寄稿して訴えたことには・・・。紙から起こして下さった方々の労に感謝しつつ。

「確証の最適な根拠は行動」「日本軍慰安婦という事実がなければ、誰が千回の集会を続けるだろうか」という乱暴な論理と、「普遍的な人権問題」・・・支援団体の空虚なスローガンの受け売り。

竹島解決に向けて 坂本義和さん寄稿

慰安婦問題の反省こそ前提

島根県竹島(韓国名・独島)をめぐる日韓関係の緊張緩和に向け、国際政治学者の坂本義和さん(八四)から本紙に寄稿があり、紹介します。



日本政府は、竹島問題解決のために国際司法裁判所に提訴する決定をしたが、これに賛成である。

なぜなら、国際社会では、武力行使や経済制裁に訴えた領土紛争に伴う破壊と犠牲の深刻さを反省して、欧州共同体などの「国際共同体」が生み出されてきた。アジア地域でも多くの人が「東(東北)アジア共同体」の形成を唱えてきたが、およそ共同体が成立するには、基本的な価値観、ルール、法の共有が不可欠である。その意味で、日本政府が国際的な法規範に基づいて解決しようとするのは正しい。

だが、韓国はこの方式に賛同してこなかった。最大の理由は、日本政府が朝鮮の植民地支配に対する誠実な謝罪と反省を示してこなかったことへの不信にある。従軍慰安婦問題が端的な例である。

日本は一九六五年の日韓基本条約で、経済協力という名の下に五億ドルを支払い、韓国の対日請求権は終わったとしている。しかし、その時点では、慰安婦の存在そのものが双方に意識されていなかった。九一年以降、慰安婦だった女性たちが声を上げ、日本軍が占領したアジア諸国、オランダでも被害者が謝罪と補償を要求する権利を主張することになった。日本政府は対応を迫られ、九三年に河野洋平官房長官の談話が
発表された。

談話で「心からおわびと反省の気持ち」と言いながら、日本政府は被害者が要求する公的な謝罪と補償は行わなかった。民間の募金を基にした「女性のためのアジア平和国民基金」が一人二百万円を支払い、首相のおわびの手紙を添えるという方式で処理しようとした。この性格不明な対処は韓国の慰安婦の圧倒多数が拒絶した。

なお、先日亡くなられた三木睦子さんは当初、この基金の呼び掛け人の一人だっが、これが国家による誠実な謝罪と補償とは違うとして脱退された。基金の問題性を自覚されたからである。

こうした状況を背景に韓国の憲法裁判所は昨年八月、韓国政府が慰安婦問題の解決を怠っていることに違憲判決を下した。これに従って李明博大統領は、同十二月の日韓首脳会談で一時間にわたり、慰安婦問題への日本の誠実な対処の必要を説いたが、野田首相は消極的な対応に終始した。親日的と言われた李大統領が裏切られた思いを抱き、国内での支持を念頭に竹島上陸という「報復行動」をとったのも理解できなくもない

しかし、李大統領が、天皇の具体的な謝罪行為まで求める発言をしたのは明らかに失言である。日本の戦争責任を日本のふつうの国民以上に痛感している点で、私も敬愛を惜しまない現天皇について、あまりにも無知であり、恥ずべきである。

他方、日韓の歴史問題の焦点とされている「日本軍慰安婦」問題について、そうした問題の存在は「確証がない」という意見が国内にある。その確証とは何を指すのか。

第一に、ふつう確証とは日本政府・旧軍の公文書である。だが、終戦直後、官庁では書類が燃やし続けられたことは周知の事実である。韓国の研究者によると朝鮮総督府でも重要文書が燃やされてしまったという。文書がなければ事実はないというのは、文書信仰にほかならない。

第二に、確証の最適な根拠は行動である。慰安婦だった女性たちを中心として、ソウルの日本大使館前で毎週水曜日に行われる抗議集会は、昨年十二月に千回に達した。日本軍慰安婦という事実がなければ、誰が千回の集会を続けるだろうか。日本では、毎週金曜日に首相官邸前で脱原発のデモが続く。これを福島の恐るべき原発事故と原発への抗議との「確証」と認めない人は、現実に目を閉じているのだ。

慰安婦問題は、広く先進国の関心の的となった。二〇〇七年に米下院で決議が行われ、日本に公式な謝罪と責任を受け入れることを求めた。ほぼ同じ趣旨の決議がオランダ下院とカナダ下院、そして欧州議会で採択された。注意するべきは、どれも日本の「友邦」による要求であり、それは「反日」の表れでは全くないことである。

慰安婦問題を指摘する者は、韓国人であろうと日本人であろうと「反日」である、というレッテルを貼り付ける人が日本にいるが、それが誤りであることは明らかである。慰安婦問題は国際的な倫理基準に照らし、普遍的な人権問題として、広く国際社会が日本の責任を問うているものなのだ。

竹島問題で韓国が国際司法裁判所への共同提訴に応じない理由は、日本の歴史的責任の欠如にあるのだから、日本がまず、慰安婦問題で国際社会に認められる謝罪と補償を行うことを韓国に確約して世界に公表し、その上で共同提訴を呼び掛けるべきである。日本の自己反省をまず行動で示し、次に竹島問題の解決に取り
組むという順序を誤らないことが重要なのだ。

さかもと・よしかず 東京大名誉教授、国際基督教大平和研究所顧問。著書に「人間と国家―ある政治学徒の回想」など多数。本紙は昨年12月10日付「3・11と日米開戦70年」特集で大型インタビューを掲載した。

中日新聞 2012年9月8日(土曜日) 朝刊2面(紙ソース)

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