ウェブ版にはないようだが、読売が野田内閣で首相補佐官を務めた長島昭久にインタビューしている。
長島のこのインタビューは、斉藤前官房副長官の証言や朝日新聞の報道とはだいぶ印象が違う。彼の口吻からは、野田政権が韓国側と慰安婦問題の解決案でほぼ合意していたという雰囲気は感じられない。むしろ正反対である(彼も10月8日の朝日新聞の報道には目を通したはず)。
長島は、韓国が圧力団体(挺対協)に気兼ねし日本に一方的に譲歩を求め続ける限り、慰安婦問題が前進することはないと言う。そして、野田-イ・ミョンバク政権がこの問題を解決出来なかったのも、それが原因だったと。彼も挺対協こそ慰安婦問題解決の最大の障害だと認めているのである。
アジア女性基金が終わった後も、日本政府は慰安婦の為に「フォローアップ事業」を行って来たのである。国際的には知られず、まったく評価もされていないが。
慰安婦韓国こそ政治決断を
日韓関係が冷え込んでいる原因の一つに、いわゆる従軍慰安婦問題の再燃がある。民主党の長島昭久衆院議員は野田政権当時、外交・安全保障担当の首相補佐官として打開策を模索した。
2011年12月、韓国の李明博大統領は京都で行われた野田首相(いずれも当時)との首脳会談で、会談時間の大半を使い、慰安婦問題で日本に対応を迫りました。李政権は08年2月の発足以来、未来志向の日韓関係を掲げてきましたが、韓国憲法裁判所が11年8月、元慰安婦の賠償請求権について解決に向けた努力をしないのは憲法違反にあたる、と判断したのを受けて態度を変えたのです。野田氏は、1965年の日韓請求権協定で賠償問題は法的に解決済みとする日本政府の立場を強調しながらも、「人道的な見地から知恵を絞っていきたい」と応じました。
圧力団体に配慮日本提案拒否
この会談を踏まえ、日本政府内では、2007年まで元慰安婦に償い金を支給した「女性のためのアジア平和国民基金」 (アジア女性基金)の終了後、元慰安婦に対して国のお金で実施していた医薬品や現金の支給、訪問ケアなどの「フォローアップ事業」の予算を増額する方向で打開できないかという意見が出てきました。昨年3月に佐々江賢一郎外務次官(当時、現駐米大使)が訪韓し、非公式に打診しましたが、「受け入れられない」というのが韓国側の答えでした。続いて斎藤勁官房副長官(当時)も韓国に乗り込みましたが、やはりダメでした。
結局、李氏は支持率が下がる中、最後の切り札である「反日カード」に頼ることにしたのだと思います。昨年8月には李氏が島根県・竹島に上陸し、日韓間で慰安婦問題を交渉できる状況ではなくなりました。
長島氏は、日本に一方的な譲歩を求める姿勢を韓国政府は改めるべきだと指摘する。
李政権が日本側の提案を受け入れなかった理由は、韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協、尹美香代表)など、慰安婦問題に取り組む圧力団体の反発を気にしたからでしょう。挺対協は、元慰安婦に対する日本の国家賠償を求め、アジア女性基金の償い金を受け取らないよう元慰安婦に働きかけただけでなく、受け取った元慰安婦に嫌がらせをしてきました。韓国政府がこうした圧力団体に気兼ねし、日本に一方的譲歩を求め続ける限り、慰安婦問題が前進することはありません。
一方的な譲歩要求では前進しない
今年8月下旬に訪韓した際、尹炳世外交相は、「安倍政権の歴史認識はけしがらん」と日本批判を展開しました。これに対し、私は民主党政権時代の朝鮮王朝儀軌(日本が保管してきた朝鮮王朝ゆかりの図書の一部)引き渡しなどに触れ、「民主党政権は、今、韓国側が懸念を表明したような問題について極力配慮したのに、韓国側はこちらの誠意を正面から受け止め、両国の共通利益に向けた対応を取らなかった。韓国側の政治的リーダーシップがないと、我々も努力のしようがない」と反論しました。
韓国側は盛んに「勇気を持って決断してくれ」と言ってきますが、日本はアジア女性基金などの決断をしている。韓国側にこそ、圧力団体におもねらない政治的決断を見せてもらいたいと思います。
(聞き手 仲川高志)
読売 2013.11.1 4面