日韓友好を願い慰安婦問題に心を痛めている人は、朝日新聞のこの社説を読んだ時、どう思っただろう。心を痛めている人というのは、慰安婦騒動に狂奔している人々の事ではない。四大紙はどこも、もう大概にした方がいいと思っている。その雰囲気は毎日新聞の社説に顕著であった。
「政治指導者は...冷静にことにあたる努力を続けねばならぬ」などと説教調の朝日新聞も、相当気に病んでいるのだろう。なんといっても朝日はこの騒動に火をつけた当事者である。子供の嘘をきっかけに隣村同士で20年に渡る諍いが始まり、仲直りのきっかけがつかめない。それを原因を作った当人が気を揉んでいるという図である。池田信夫は朝日新聞が訂正して説明するべきだと言うが、今さら朝日新聞が全てを告白した所で、天井まで火が回っては手遅れである。
「韓国の人たちに知ってほしい点もある」と朝日新聞は言う。日本側の説明にも耳を傾けて欲しい・・・20年前の朝日新聞にそう言うだけの理性があればこんな事にはならなかったのである。当時の朝日は、騒動を煽りに煽って大火事にしたのである。そしてその結果、日韓両政府はまともに話も出来ない状態である(大統領は、首脳会談の57分のうち45分間、慰安婦問題について喋り続け、韓国民の期待に応えねばならなかった)。
それでも朝日新聞は相変わらず奇麗ごとを並べる。
「李大統領は...なぜそう主張するのか、歴史的にわからないではない」・・・イ・ミョンバクも本心ではこんな事は言いたくないのである。慰安婦騒動は、良心的日本人や朝日新聞が煽った結果、韓国の大統領でもどうしようもないレベルまで達してしまったのである。その事は、朝日新聞自身重々承知のはずだ。
「尊厳は侵されて報われぬままという怨念が...」・・・白々しいのである。除幕式のこの興奮を見よ。こんな光景はワールド・ベースボール・クラシックで日本を破って優勝でもしない限り見られないだろう。「アジア女性基金が償い事業をした」・・・それには民族別で再多数であったと思われる日本人が対象として含まれていない事を、朝日はどう考えているのだ?
〆の部分では、もうなりふり構わず何とか文章の形に纏めようとしている。人間は過度に緊張したり、追い詰められると、話をしている自分でも馬鹿らしくなるくらい支離滅裂な事を喋っている時がある。それでも何か喋らなければならない。聴衆が引いていると分かっていても、とにかく何とか辻褄を合わせようとするが、最後まで支離滅裂のまま終わってしまう。そういう経験をした人も多いだろう。朝日新聞も、今まさにそんな思いでいるのだろう。
「野田首相は李大統領との会談で『人道主義的な見地から知恵を絞っていこう』と語った。問題を打開する糸口は、ここにあるのではないか。65年の協定で解決したかしていないかではなく、人道的に着地点を見いだしていく。それは行政ではなく、政治の仕事だ。日韓の政治がともに探る。そういう時期にきている」
「そういう時期に来ている」というのは、何をもって判断したのか?アジア女性基金は時期尚早だったとでも言うのか?朝日新聞は、日韓基本条約には慰安婦問題は含まれていない、の一本で行くと決めたようだ。そういう事は、日本人慰安婦が何らかの補償の対象になってから言うべきだ。朝鮮籍、台湾籍の旧軍人属、被爆者が日本人並の補償を受けられないというなら、それは日本政府の責任ではないが、同情して何らかの方策をと考えるのは理解できる。しかし、そもそも(日本人)慰安婦自体なんの補償の対象にもなっていないではないか。
最後は、これは「政治の仕事だ」と開き直っている。朝日新聞自身も分かっているはずだが、朝日が言っているのは、人道ではなく政治的着地(妥協)点の事である。
日本と韓国―人道的打開策を探ろう
野田首相と李明博(イ・ミョンバク)韓国大統領との首脳会談は、これまでとうって変わり、元慰安婦の問題をめぐる重い言葉が交わされた。
個人が受けた被害にどう向きあうかは、歴史認識や領土問題とともに、双方の国民の感情に直接響きあう。ナショナリズムにも流されやすい。
それだけに政治指導者は、互いに信頼を築き、冷静にことにあたる努力を続けねばならぬ。
李大統領は日本との公式会談の場で初めて、元慰安婦問題を論じた。「日本政府が認識を変えれば直ちに解決できる」と訴え、「誠意ある温かい心」に基づく対応を求めた。
なぜそう主張するのか、歴史的にわからないではない。
日本政府は、1965年の国交正常化時の協定で完全解決したとの立場を一貫してとる。野田首相もそう主張した。
けれども、正常化交渉の当時に想定していなかった問題が後になって出てきた。元慰安婦はその典型的な例だ。
今年、韓国政府は憲法裁判所から、日本への個人賠償請求を「交渉しないのは憲法違反」と断じられた。米国との貿易協定や政治腐敗をめぐる政権批判も強まるいま、元慰安婦問題の進展を迫る世論を無視できない。そんな事情もあった。
ただここで、韓国の人たちに知ってほしい点もある。
国交正常化で日本が払った資金を、当時の朴正熙(パク・チョンヒ)政権は個人への償いではなく経済復興に注いだ。それが「漢江の奇跡」といわれる高成長をもたらした。
また、元慰安婦への配慮がなかったとの思いから、日本は政府資金も入れて民間主導のアジア女性基金が償い事業をした。
この事業は日本政府の明確な賠償でないとして、韓国で受け入れられなかったのは残念だったが、当時の橋本首相ら歴代首相のおわびの手紙も用意した。韓国は韓国で独自の支援をしたけれど、日本が何もしてこなかったわけではないのだ。
元慰安婦は高齢化し、何人もが亡くなっている。なのに尊厳は侵されて報われぬままという怨念が、支援団体がソウルの日本大使館前にたてた「記念像」につながった。
野田首相は李大統領との会談で「人道主義的な見地から知恵を絞っていこう」と語った。
問題を打開する糸口は、ここにあるのではないか。65年の協定で解決したかしていないかではなく、人道的に着地点を見いだしていく。
それは行政ではなく、政治の仕事だ。日韓の政治がともに探る。そういう時期にきている。
朝日 2011.12.19