慰安婦の孫を自称する男が、日本の歴史認識を糺すとしてソウルの日本大使館に火炎瓶を投げ込んだ事件の続報。あまり日本で関心が高いという印象はないのだが、日本の報道陣が傍聴席を埋め尽くしたというのは本当なのだろうか?
なお、挺対協は、この犯人を日本に引き渡すなと当局に圧力をかけていた。余談。
【コラム】靖国放火犯の引き渡し問題、韓国外交の試金石に
靖国神社の門に放火し、その後ソウルの日本大使館に火炎瓶を投げ付け韓国で服役中の中国人・劉強受刑者(38)について、韓国は身柄引き渡し問題の解決を迫られている。昨年12月6日に靖国神社の門に火をつけた後、韓国に逃避した劉強受刑者は今年1月8日、再びソウルの日本大使館に火炎瓶を投げ付け、現場で逮捕された。懲役10カ月を言い渡されて服役を終えたが、このたび日本への引き渡し審理を受けるため再び収監され、現在は裁判所の決定を待っている。日本政府は刑の執行が終わった劉強受刑者を「犯罪者引き渡し条約」に基づき引き渡すよう要求しているが、中国は同受刑者を「政治犯」として認めて国外追放の形で送還するよう強く迫っている。韓国法務部(省に相当)は悩んだ揚げ句、裁判所に判断を委ね、裁判所は来年1月5日までに劉強受刑者を日本に引き渡すかどうか決定しなければならない。
日本で右派傾向の強い安倍晋三政権が誕生することになり、北東アジア3カ国の緊張が高まる中、劉強受刑者の身柄引き渡し問題は韓国政府にとって「火中の栗」でしかない。日本政府は「劉強受刑者を中国に引き渡すことになれば、ただでさえ冷え込んでいる韓日関係は決別に向かって進むことになるだろう」と強硬な姿勢を見せている。先月から3回にわたり行われた劉強受刑者の審理では日本の報道陣数十人が傍聴席を埋め尽くすなど、日本側の関心の高さを現している。
中国はあらゆる外交チャンネルを通じて韓国に圧力をかけている。今年7月に訪韓した孟建柱公安部長は、法務部の権在珍(クォン・ジェジン)長官と会談した際、「日本の要求通りにすれば深刻な外交問題になるだろう」と述べた。劉強受刑者の弁護人によると、在韓中国大使館の関係者は劉強受刑者が中国に送還されると確信している様子だという。
中国政府が放火犯に過ぎない劉強受刑者に対しこれほど執着し、中国送還を固く信じているのはなぜだろうか。劉強受刑者は法廷で、韓国国籍の母方の祖母が1940年代に旧日本軍慰安婦で被害を受けたという家族歴を明かし、犯行の動機について「日本政府の歴史認識を正すため火をつけた」と説明した。つまり「反日政治犯」だから中国で裁判を受けさせるべきだと主張しているのだ。今年11月も劉強受刑者の引き渡し審理が請求されると、興奮した中国のインターネットサイト上には「韓国は中国を裏切った」など韓国を非難する書き込みが6000件以上も掲載された。劉強受刑者は中国のネットユーザーの間で「抗日烈士(日本に抵抗し自らの身をささげる人物)」と言われている。
これまで韓国の刑事司法執行の過程に介入し、「輝かしい戦果」を挙げてきたのも、中国が劉強受刑者送還に自信を持っている理由の一つだ。韓国政府は昨年、中国共産党関連資金数百億ウォン(100億ウォン=約7億8000万円)を横領して韓国に逃走してきた中国共産党幹部について、中国側の圧力に勝てず正規の手続きを踏まないまま中国に引き渡してしまった。昨年1月に訪中した金畯圭(キム・ジュンギュ)検察総長=当時=に中国共産党の幹部が直接面会を求め、「捕まえて送還してほしい」と特別要請したことから検察職員が直接その幹部を逮捕した。幹部は韓国で犯した犯罪が明らかになり起訴されたが、裁判を受けずに過酷な刑罰が待つ中国に送られた。幹部が中国でどのような処分を受けたかは分かっていない。違法操業で摘発された中国人船員が韓国海洋警察に暴力を振るい殺人を犯しても、処罰どころかまともに抗議すらできない弱腰外交が繰り返されているのを考えると、中国が韓国の司法制度を軽視するのも当然かもしれない。
劉強受刑者の件については韓国の専門家の間でも「政治犯と認めて中国に送還すべきだ」という見解と、「単なる放火犯だから条約に基づき日本に引き渡すべきだ」という見解が対立している。現在は韓国政府が国内の反日世論を意識してどうにもできず、裁判所に責任を押し付けた状態だが、劉強受刑者の引き渡し審理決定日は刻一刻と迫っている。現政権が責任を取らず、解決に乗り出さないとなれば、新大統領がその課題を負わざるを得ない。
鄭権鉉(チョン・グォンヒョン)記者
続報 2013年1月3日: 高裁は日本に引き渡さずに中国送還すると決定。慰安婦カードがある種の免罪符になっている現実。
靖国神社放火の中国人 「日本へ渡さぬ」 韓国高裁決定、条約不履行
【ソウル=加藤達也】2011年12月に東京の靖国神社の門に放火したことを韓国で認め、日本側が日韓犯罪人引き渡し条約によって身柄の引き渡しを求めていた中国籍の劉強元受刑者(38)について、引き渡しの適否を審査していたソウル高裁は3日、元受刑者を日本に引き渡さないとする判断を下した。韓国の聯合ニュースが伝えた。
同条約では引き渡しを拒否できる理由として政治犯などを挙げ、それに該当しない場合は引き渡さなければならないとしており、審査では犯行の「政治性」が焦点となった。
聯合ニュースによると、ソウル高裁は靖国神社への放火を「政治目的との関連性が認められる」と判断した。
劉元受刑者は12年1月、ソウルの在韓国日本大使館の敷地内に火炎瓶を投げ込み、韓国で実刑判決を受け服役。取り調べや公判で、11年12月に靖国神社の門に放火したことを自供した。放火事件を捜査していた警視庁が逮捕状を取得、日本側は条約に基づいて身柄の引き渡しを求めていた。
元受刑者は大使館への火炎瓶投げ込み事件については韓国で逮捕、起訴されて服役。昨年11月に刑期を終えたが、日本への引き渡し審査終了までの間、拘束されていた。
放火と火炎瓶の両事件の動機に関連し、「祖母が日本軍の慰安婦だった」などと主張。中国政府はこの点を強調し、韓国政府に政治犯と認定して中国に退去させるよう外交圧力を強めていた。最終判断は韓国の法相が下すが、今回の判断で身柄が中国に引き渡される公算が大きくなった。
日本政府筋はこれまで、「合理的かつ正当な理由なく引き渡しを拒めば、韓国は犯罪人引き渡し条約の不履行国となり、国際的信用の失墜は免れない」と指摘していた。
産経 2013.1.3